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評価:
多島 斗志之
¥ 660
(2006-01-25)
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多島さんの作品を読むのは、これで3作品目です。
購入したまま、随分長い間、本棚に置いたままだったのですが、
お盆休みに本を読もうと家にあった数冊をめくってみました。
そして、冒頭を読んでは「なんか乗り気がしない」と、次の本を開き
また乗り気がせず次の本を開き・・・と繰り返して、最後に手に取った
この「離愁」では冒頭から引き込まれていったので、よし、このまま
読もう、と読み進めていきました。
主人公の高校生の男の子(名前、出てきたっけ?ど忘れ)は、
母の勧めで、叔母「藍子」からドイツ語を教えてもらうことになります。
欲しい釣竿を買ってもらう交換条件として、叔母にドイツ語を習うこと
が母から条件に出されたわけです。
この叔母は、昔の美貌を残しながらも無表情、徹底して人とのかかわりを
好まない人で、家も生活も非常に質素、そして何よりも生きる意欲が
感じられない・・・そんな叔母でした。
「あの叔母は、何を楽しみに生きているのだろう」。
従姉妹の美那は、そんな風にいつも言うのでした。
当時は、叔母に対して何の興味も持たなかったこの高校生の甥は、
齢も50歳を過ぎた頃、あることがきっかけで今は亡き叔母の、知らなかっ
た素顔を知ってくことになるのです。
それは謎に満ちた波乱の人生であり、また自分が高校生の時には
あの叔母からは想像も出来なかったほど、別人のように生き生きと
した叔母の人生。
叔母がまだ若かりし頃、叔母と親しく交流のあった兼井という男の
手記を手に入れた主人公は、叔母に何が起こったのかを知っていく
ようになったのでした。
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兼井という男の手記が終わる辺りでは、藍子叔母の、心の底から
愛した男との関わりが分かり、読める展開なのですが、
手記でも明らかにされていなかった、藍子叔母の空白の6年間を
描くくだりから、なんだか切なさが増してきました。
そして最後の、ある人物の告白の辺りで胸が少しずつ締め付けられ、
思いもよらない真相にたどり着いた辺りでは、思わず涙が出てしまい
ました。ワーワー泣くような感じじゃなく、ポロッと涙が落ちるような・・・。
久しぶりに切ない小説を読みました。
藍子叔母は、若くして頼れる相手を限定してしまったんだなと思います。
時代が、彼女の行く末をそうさせたのか・・・。
今の時代ならば、もっと変わっていたのではないかとも思ったり。
まあ、チュンさんのあの行く末のせいで藍子叔母の人生が、
日の当たる場所から絶望の場所へ、と言っても過言ではありませんが。
この小説内には、あれこれ詳しく描かれていませんでしたが、
藍子叔母の姉である容子(主人公の母)も、真相をうすうす感づいて
いたのかもしれないな、とも、読み終わった後に感じました。
う〜ん、多島さん。
切なかったですぅ〜。
でも、ますます多島作品が好きになっていきますね。