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評価:
¥ 3,600
(2008-05-08)
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ピーター・オトゥールと言えば、「アラビアのロレンス」という映画で
観た印象が強い。そのときの彼は、アラビアの砂漠の中で大きく
映った。実際、身長は180センチを超える大柄だったようだし、
アラビアで活躍する英雄を演じたせいか大きく見えた。
あの映画から数十年。この「ヴィーナス」でのピーターは齢70代
後半。小柄な老人に見えた。実際は、他の役者と並べば決して
小柄ではないのだけれども。
ピーター演じるモーリスは、大役はやったことはないけども、脇役
ではそこそこ有名だった老年の俳優。今も生活費を稼ぐために
端役をやりながら、同い年くらいの親友イアンと老後の静かな生
活を楽しんでいる。
そんなイアンの元へ、姪の10代後半か二十歳そこそこと思われ
る娘が居候することになる。イアンは「老後の世話をしてもらえる」
と喜び期待し、彼女に料理や掃除を期待し、また彼女を自分の
思うようにある意味”調教”することを期待した。
ところがその娘はイアンが描いた生活の質とはほど遠いことを
やってのける世代であり”人種”だった。
料理は”出来合いをレンジで温めることである”世代であり人種。
イアンを汚い老人よばわりし、イアンはすっかり彼女を邪魔者扱い
するようになる。
しかし、昔は”色男”でならしたモーリスが、その若い娘を気にいっ
て、年甲斐もなく淡い恋心を描くようになっていく。
元々女たらしで女性には優しかったであろうモーリスは、その娘
を”ヴィーナス”と呼び、彼女を大切に扱うようになる。
下手をしたら”曾じいちゃん”くらい年が離れていると言っても過
言ではないモーリスに対し、彼女は最初”汚い””気持ち悪い”
と口攻撃をする。
ところが、彼女はモーリスの扱いによって、何かが変わっていく。
”女として”はなく、”人”として。
この、彼女の”変化”が、なんか心をキュンと切なくさせるのが
この映画の醍醐味かなと。
最初はただの「老いらくの恋」だけの映画かと思っていたけども、
(まあ、モーリスの視点から映画を見ればそうなるけども)ヴィー
ナスの視点から見れば、また全然変わってくる映画。
田舎育ちでまだ若く常識も教養もない若い娘が、人生の最終章を
迎えている老人の懐の深さによって、また親にも邪険にしか扱わ
れなかった人間が、初めて人に大切にされることで”心が”大人に
なっていくのを描いていっている。
またイアンの視点から見ればそれはそれで違った模様が出来上
がっているのが、この映画の良さかな。
イアンがモーリスに「どうやって彼女のようなあの今時の世代
と人として付き合っていってるのか?(自分には彼女は理解でき
ない)」と質問したときに、モーリスが言ったその答えがとても
心に残った。短いけども説得力ある一言。
あの一言に、この映画の言いたかったことが全部集約されてい
るのかな、と。
ヴァネッサ・レッドグレープ演じる、モーリスが捨てた妻も登場
するが、彼女の登場シーンは非常に短いのに心に残る。モーリ
スの若かりし頃は華やかだっただろうが、それによってもたらされ
た妻の苦労も垣間見える。
でも、年がいけば人はその苦しみも許し、寛大になれるのかな。
老年の二人の関係には、それが伺える。
自分も老年期には、人の過ちを全て許したような人間でいたいと
思わされた。
この映画は多分そんなにメジャーになっていないと思われるが、
主演のピーター・オトゥールはこの映画でアカデミー賞の最優秀
主演男優賞にノミネートされていたようだ。
うん、確かにそれだけの評価は与えられるべき映画だなと思う。
若い世代には理解できない映画かもしれないが、30代後半以降
の世代には心にくる映画かも。