|
評価:
ベルント・アイヒンガー
¥ 4,430
|
これまた、ウォンテッドの記事でも名前を出したトーマス・クレッチマン
登場の歴史映画。
見ながら早速驚いたのは、映画「ワルキューレ」にも登場したクレッチマン
ともう一人の俳優が、内科医(軍医)として登場したことです。
クレッチマンの経歴を見ると、彼はドイツ人のせいかナチス将校の役が
結構多いようです。そもそもワルキューレでも、トム・クルーズが主役に
決まるまではトーマス・クレッチマンが主役だと決まっていたそうで。
彼がこういった役柄や映画を好んで出演するのも、クレッチマンの経験
が大きく影響していると思われます。
クレッチマンは西と東(民主主義と共産主義)に分裂していたドイツ、それも
共産主義の東ドイツの生まれであり、彼は10代の半ばでオリンピック
選手としての輝かしい栄光を捨ててまで、亡命をしています。
雪の山々を越えて亡命したせいで指の一部を凍傷で亡くしているという
壮絶な経験をしています。
その経験をせざるを得なかったのは、ドイツの戦争の後遺症を彼の
生まれ故郷が大きく受けていたせいだと思うのです。それらの経験が
ナチス将校を演じる理由かもしれません。
あとは、「トロイの秘宝」で発掘家シュリーマンを演じた俳優も、この映画に
登場していて、欧米の演技派俳優で固めた豪華キャスト出演の映画になって
いるのも、この映画の特徴と言えます。
ヒトラー(昔は”ヒットラー”という表記や読みが多かったですが、今は
ヒトラーで定着しています)を描いた作品は多くあるようですが、この
作品は実に中身の充実した濃い映画でした。
ヒトラーの政治家としての人生ももっと見たい人には、ロバート・カーライル
がヒトラーを演じた「ヒットラー」を見ると、さらに広い部分でヒトラーの経緯
を理解できるかもしれません。
その映画を観た後で、この「ヒトラー 〜最後の12日間〜」を見ると、
もっと深く理解出来ると思います。
この映画は、死までの12日間、それもヒトラーがまるで「裸の王様」の
ようになってしまった失意の12日間を描いていて、12日間という日数は
短いのに、中身が非常に濃い映画になっていました。
ヒトラー秘書のユンゲという女性の視点で描かれてる形ですが、
彼女には優しい紳士だったのでしょう、カーライルの演じたヒットラーと
は違う一面も描き出されています。
カリスマとして慕われる一方で、信じることができる人がほんの一部しか
いなかったというヒトラーの孤独。
ソ連に攻め込まれ、実質敗北のような状態になってしまって「自決」を
表明する一方で、逃亡したり降伏しようとする部下たちのことは許せず
に「処刑」の命を出す。ヒトラー帝国が崩壊しつつあっても、いつまでも
権力を保持した頂点の男でありたかったプライドゆえ、部下の存命の
有無の決定権をいつまでも保持したかったのでしょう。
時には「逃げる用意を」といい、また別の時には「軍を編成しなおせ」と
言い逃亡をしようとしていたクレッチマン扮する、エヴァ・ブラウンの妹
の夫でさえも処刑する。また、青酸カリの入ったカプセルを外交官に
渡し、いざというときにはそれで死ぬように促す。
彼の孤独と混乱振りが、静かに描かれています。
また、この映画のもう一つのドラマとして挙げられるのが、やはりゲッベ
ルスとその家族の物語です。
ゲッベルスはナチスの広告宣伝担当大臣のような立場で、非常にヒトラー
に心酔している男でした。その妻もしかり。
妻の場合、女たらしなゲッベルスがある女優と一緒になりたいがために
自分と離婚しようとしたことがあり、ヒトラーがそれを止めてくれたことで
ヒトラーに非常な信頼を置くようになったといわれています。(ヒトラーは
国民の信頼を得るために政治家ゲッベルスのスキャンダルを好まなかっ
ただけで、ゲッベルスの妻のために離婚を止めたわけではなかったん
ですけどね)
ゲッベルスはヒトラーの死後、ドイツの首相として任命されていました
が、ソ連の言う「無条件降伏」を絶対に呑めないとし、降伏せずに死を選ぶ
ことにします。妻と子供たちも巻き添えに。
その妻が、6人のまだ幼い子供たちに睡眠薬を飲ませ、完全に眠りに
落ちいった子供たちを毒殺するシーンでは、なんとも言えない気持ちに
なりました。それは同情でもないし、切なさでもないし、怒りでもないん
ですが、なんなんでしょう、盲目であることの怖さ、でしょうか・・・。
なんか宗教のために人を殺したり、盲目に教祖を信じてためらいもなく
盲目に殺人を決行する無知な人のようで、その姿は悲しいものです。
ヒトラーやナチスを心酔したあまりに取ったゲッベルスとその妻の取った
行動は、部外者からは非常に奇異で滑稽に見えてしまう。
でも本人たちは、それが幸せの道だと信じて疑っていないんですけどね。
子供は正直言って、大きな犠牲者です。睡眠薬だと知らずに、薬だと
言われて飲んだ子供たちですが、長女のヘルガだけは何かを感じ取り、
(感じることが出来るほどの年齢に達していたと思われます)飲用を
拒否するんですよね。このあたりのシーンが悲しかったです。
あの6人の、寝息を立てて安らかに寝ている子供たちの口を一人ひとり
開き、青酸カリ入りのカプセルを入れ顎をグッと押し上げ噛み潰させ
る・・・。即効性のある毒なので、すぐにうなだれ死ぬ子供たち。
毒殺した後、毛布を顔にかぶせ、次の子供へと実行に移る。
その妻の姿には、涙もためらいもありません。泣き崩れもしないのです。
(一通り終わった後、子供たちの部屋から出た瞬間に崩れ落ちるの
ですが、またすぐに立ち上がり歩いていきます・・・)
戦争という舞台で重要な役を与えられたヒトラーをはじめ、
将校や元帥、大佐、また親衛隊たちは、権力を行使することに酔い、
その権力を自分勝手に行使すればするほど、ますます尊大になって
いき簡単に人を殺せもしてしまう。まるで自分が全てを支配する神だと
言わんばかりに。ゲッベルスの妻がわが子を毒殺したのもそうでは
ないでしょうか。
そんなことを感じさせる映画でした。
戦争映画には興味がない人には、退屈な2時間かもしれませんが、
ナチス映画に興味がある人には非常によい映画となると思います。
自分はこのDVD欲しいですね。
また時間があったら見たいなあと思います。